WHO取材記 大垣美穂子 VOL.01
2012-2-6(Mon)
次号のWHOで特集するのは、大垣美穂子さん。
一回目の取材は、作品や好きな映画についてお話を聞きました。
彼女が好きな映画の一本にあげたのが「蒲田行進曲」。
この映画に出て来る風間杜夫演じる銀ちゃんが理想の男性像だそうです。
何年か前に見た時の印象だと、
スターである銀ちゃんは、身辺整理と言って
身ごもった落ち目の女優小夏を
子分でもある大部屋役者のヤスに押し付けたり、
かなり、わがままで身勝手な人。
それだったら、真面目だけが取り柄のようなヤスの方が
幸せにしてくれそう気が。
でもそれは、美穂子さんからすると
分かってないということになる。
銀ちゃんとヤスに対して、
僕と同じような感想を持った人が予想以上に多く
原作者のつかこうへいは、続編の小説では、
ヤスの駄目っぷりと、銀ちゃんの器の大きさをより強調して描いたとのこと。
そこんとこを意識してもう一度見直しみると、印象が随分と違う。
銀ちゃんは、ただただ自分がやりたいと思ったことを
他人の迷惑も考えずに突き進もうとする実に明確な人。
そして、その銀ちゃんがつくりだす状況に対しての、
受け入れ方が小夏とヤスでは大きく違う。
小夏は、銀ちゃんのむちゃな要求を覚悟を決めて受け入れ、
結果的にヤスの女になる。
銀ちゃんから戻ってこいと言われようと、
ヤスを献身的にサポートする。
対してヤスは、
小夏を押し付けられる時も、
銀ちゃんのために階段落ちを引き受ける時も、
その場では、嫌な顔ひとつせずに、
やります!やります!って言うけど、
でも、そこまでの覚悟を持ってないから、
状況が変化してくると、ほころびがでてきてしまう。
そしてそのほころびが、
階段落ちの前夜に一気に吹き出す。
その八つ当たり方がすごい。
神棚がくだかれ、ガラスが割れ、灰がまい、
怒りにまかせ部屋をめちゃめちゃにする。
ごくごくたまに、モノにあったたりするけど、
頭の隅では、現状復帰のことを考えているから、
面倒くさくならないものに手を伸ばす。
でも、さすがにここまでくると、現状復帰の道はない。
もう別の物になる。
こちらは、
Sonic Youthのジャケットにもなった
Jeff Wallsの「destroyed room」。
モノは、破壊され機能が失われると、ただのなんでもないものになる。
そうすると、不思議と、今まで見えてこなかった
色や質感や形というものが、見えてくる。
美穂子さんの「over the pain」は、
むかついたことを叫びながら、ガラス玉を目の前の壁にぶつけ、
それをホットボンドでくっつけたという、
人の怒りや痛みを形にしたような作品。
「喜びと悲しみ、男と女といった、
両極にある相反するものを、
あるラインを超えることで反対側にスライドできるのではないか、
ある温度を超えたら、痛みは美しいものになるのではないか」という
コンセプトのものとに作られた作品。
モノは割れると
現状復帰の道はなくなり、別のものになる。
割れることで、新たな質感、複雑な形、色が生まれ
そこには、ラインを超えてしまった
別の美しさがある。
次回の取材もどうぞよろしくお願いします。