BOOKS:伊丹十三
2011-6-16(Thu)
「浅ましいと思われるほどの素早さで、
折り詰めの包み紙をベリベリと引きはがし
えいとばかりに蓋をとった。」
「自分のような日頃健康なものにとって
風邪のひき始めというのは、
なにがなし物珍しく甘美なものである。
思いっきり世の中に甘えてみたいような、
また、それがいかにも当然であるかのような
甘酸っぱい心持ちがする。」
浅ましいと思われるほどの素早さ。
なにがなし物珍しく甘美なものである。
この仰々しくって堂々とした文体がツボです。
「積極的な好みと、消極的な好みがあるように思う。
『美は嫌悪の集積である』というヴォルテールの言葉が
説明しているように、ある人の場合、
否定的な形で好みというものが形成される」
「T.S.エリオットの詩の一節に
The naming of cats is a difficult matter というのがある。
つまり猫に名前をつけるのは難しい事柄です。
というのであるが、こういう平凡な事実を発見するのは、
なかなか難しく、また平凡なことであると思う。」
ほぉなるほど、と思う話から、
タクシーの道順の話とか、
野球の隠し球の話とか
どうでもいい話まで、
すべてにおいて一貫して哲学、思想を持っている。
そこがすごくおもしろい。
「その時味わった大きな安堵は、はっきりと憶えている。
それはいわば種族としての人類の脈々たる
歴史の大いなる流れに組み入れられた安心感とでも
いうべきものであったろう。」
初体験の話でも
堂々と仰々しく。
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