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霞はじめてたなびく

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2019-4-20(Sat)

トーキョーアーツアンドスペース本郷で行われた
佐藤雅晴さん、吉開菜央さん、西村有さん
3名の作家による「霞はじめてたなびく」展の
チラシ、カタログ等をデザインした。
ビジュアルは、作品画像と霞で構成、
作品画像の輪郭がぼやけることで、
作品が持つ別のものとつながる流動性とリンクできたことや
作品同士がブレンドされた部分ができたことがよかった。
各階に展示されたそれぞれの作品はもちろん、
ひとつの作品の余韻が次の作品と
そっと混じっていくような感覚も印象的な展示だった。

1階で展示されたのは、佐藤雅晴さんの「福島尾行」。
屋根の上でたなびくブルーシートや、帰宅困難区域へ通じる桜並木など
福島で撮影された20を超えるシーンで構成された映像作品。
同様の手法で作られた前作「東京尾行」では
実写とトレースされたアニメーションが混在することで生まれる
奇妙な豊かさが印象的だったのに比べ、
今回の作品では、混在することで生まれる
分断感だったり境界線の存在が印象的だった。

佐藤さんの他の作品でも見たことのある
トーレスされた車内と窓越しに流れる景色のシーンも
この作品では、対象物を一定の距離から捉える観察者の目線だったり
二つのものを分ける境界というものを象徴しているように見えた。

2階に上ると吉開さんの映像作品「静座社」が展示されている。
大正時代に流行した岡田式静坐法と呼ばれる健康法に
深く関わりのある家を舞台にした映像作品。
家の取り壊しが決まり、引越しを手伝いながら映像と音を撮ったそうだ。
呼吸する音、紙をめくる音、床がきしむ音、風でさわさわする音、
動きと音の心地よい連動感と、どんな些細な動作も音を出すことを
改めて感じることができた。

何度も開け閉めされただろう障子や机の引き出しなど、
取り壊しが決まった家は、もう音を出さなくなったもので溢れている。
メモのような手紙のようなものもその一つ。
ものすごく弱そうな筆圧で書かれた文字を見ていると
弱々しくも微かな音の存在を感じることができる。
向こうが動きだすのをじっと待っていると
痕跡として存在する過去の音までも聞こえてきそうだ。
新作となる「Wheel music」では、
自転車の車輪が回るチャリチャリという音が、
動く楽しさ喜び、そのものの音のように聞こえてきた。

そして最上階の3階では、
西村有さんのペインティング群が待っている。
白く明るい空間に大小のキャンバスがリズム良く配置され
作品が同居するおもしろさや隣合う楽しさが、
一層際立っているように感じる。
形が省略化されたようにも見える景色や少女たちは、
その曖昧な形の中に別の何かを隠して持っているようにも見える。
つじつまや整合性といった
何か既存のものに回収されないように
破綻させたり、分解したりして、
もっと大切にしている何かを
キャンバスの中に留めようとしているように感じた。

展覧会のタイトル「霞はじめてたなびく」というのは、
季節の変化を72 の文章で表す、七十二候に由来している。
七十二候は、元々、古代中国で考案されたもので、当時のものには、
カワウソが捕らえた魚を並べて食べる、虫が土中に掘った穴をふさぐ
といったものもあり、着目するポイントや言い回しがなんとも興味深く、
観察する人の存在が見え隠れして面白い。

花瓶に生けられた切り花や、鉢植えに植えられた花を
自身の中で東京の象徴として捉え「東京尾行」の軸となったと佐藤さんは言う。
そして「福島尾行」では、その軸となるものがまだ見つけられない、
もっと時間が必要だったと。
未完となった「福島尾行」を見ていると固定感のようなものを感じる。
三脚を担いで歩き回り、気になるポイントが見つかると
三脚をしっかり立てて、じっと撮影し、
向こうから訪れる何かを静かに待っている、そんな固定感だ。

様々な変化の中に身を置き、
何を大切にし、どこに着目するか、
そしてそれをどこからどうやって見るのか。
じっと向こうが動きだすのを待ったり、軽やかに動き回ったり。
三者三様、尾行者や観察者となり、
対象物との関係性を作ろうと努め、自身の存在や思いを重ね合わせ、
何かに身を委つつも自身の感覚を信じて作品を作っていると感じた。


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杉原洲志 Shuji Sugihara
1976年生神奈川生まれ。
WHO編集長/アートディレクター

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